給料控除されていたのに未加入の雇用保険
相談内容朝8時半から7時間勤務のパートで小さな町工場で働き、後少しで勤続15年になる。
先日、退職した同僚が雇用保険料が給料から控除されているのに雇用保険に加入されていないと言う。半信半疑でハローワークに問合わせたが、自分も加入がないと言われた。
労働基準監督署にも相談したが、「事業主にすぐに納めるように申し出て、納めれば2年間は加入していたことにできる。しかし、時効があるため2年以上前の 分はどうしようもない」と言われた。納得がいかないが時効があるって本当か。給料明細は全部ではないが、8年位前からのは取ってある。
事業主の雇用保険手続き漏れによる取得については、加入遡及期間は2年までとする時効が規定されている(労働保険徴収法41条1項)。これまで給料から控 除されていたとしても、2年より前については時効により加入できない。その期間の保険料は事業主から全額返還してもらうこと。
しかし、保険料が全額戻っても、失業給付の日数は加入期間によって変わることから(別表「給付日数」)、受給総額が減ってしまい被保険者が不利益となる場合があることは事実。
従って、不足分の金額については、適正な事務処理を怠ったことを理由に債務不履行による損害賠償責任(民法415条)、又は不法行為による損害賠償責任(民法709条)を事業主に求め取り戻すしかない。
但し、これも事実を知ってから一定期間に行わないと時効(10年―民法167条、3年―同法724条)があるので注意すること。
事業主が雇用保険の加入手続きをすると、「雇用保険被保険者証」が交付され初めて保険料の納付義務が発生し、雇用保険の受給権などの権利や義務が生じる。 この雇用保険被保険者証を事業主に預けたままにしている方も多いが、何かのトラブルがあってからでは遅いので、できる限り自分自身で管理をするのが良い。 紛失した場合はハローワークで再交付の申請ができる。
「雇用保険の受給資格」
被保険者が失業した場合、受給資格は原則として「離職の日以前2年間の被保険者期間が通算して12ケ月以上」あることが必要(H19年10月1日改定)。
但し、特定受給資格者と特定理由資格者に該当する者は、「離職日以前の1年間で被保険者期間が6ケ月以上」あれば給付制限なく支給される。
[一般の離職者]
①契約期間3年未満で契約期間満了による退職、②定年、移籍出向による退職、③被保険者期間12ケ月以上での正当な理由のある自己都合退職、④正当な理由 のない自己都合退職(転職希望、一身上の都合など)、⑤被保険者の責めに帰すべき重大な理由による解雇。(*④と⑤の該当者は3ケ月間、基本手当の給付制 限がある)。
「特定受給資格者」
一般の離職者の内、被保険者に責めのない特定の離職理由(①解雇による離職、②天災その他やむを得ない理由により事業の継続が不可能になったことによる解 雇による離職、③契約期間満了による雇止め、④事業主からの働きかけによる正当な理由のある自己都合退職、⑤事業所移転等に伴う正当な理由のある自己都合 退職)に該当する者を特定受給資格者といい、受給資格が「離職の日以前の1年間で被保険者期間が6ケ月以上」と緩和されている。
「特定理由資格者」
更に、H21年4月1日から①契約期間3年未満で、契約満了時に労働者が契約更新の希望をしたにも関わらず更新されないことによる退職、②被保険者期間6 ケ月以上で、正当な理由のある自己都合退職の場合、新たに「特定理由資格者」という区分が追加された。受給資格は特定受給者資格に同じ。
「給付日数」
給付日数は左表の通り、一般と特定では大きな違いがある。一般の受給資格者は年齢に関係なく被保険者期間で90日から150日までとなっているが、特定受給資格者と特定理由資格者は年齢と被保険者期間によって90日から最高330日まで定められている。
なお、自己都合退職であっても、そのきっかけが体力の不足、疾病や家庭事情の急変によるもの等正当な理由が認められると特定理由資格者に該当する場合もあるので窓口で相談を。
特定社会保険労務士 山口正人